カナザワ映画祭2022
期待の新人監督

授賞結果発表

今年の「期待の新人監督」は応募作品108本の中から
7作品上映され、4作品に賞が贈られました。
おめでとうございます!

グランプリ
期待の新人監督賞

川上さわ監督『散文、ただしルール』

川上さわ監督
『散文、ただしルール』

受賞者&審査員コメント
カナザワ映画祭 期待の新人監督2022 <授賞式> 書き起こし

川上さわ

はじめまして、川上さわと言います。本当にこんなことになると思わなかったので、動揺しています。はじめて撮った映画で、こんな大きな賞をいただけると思わなくて。大学1年生のとき撮ったんですけど、高校時代に辛いこととかいっぱいあって、いつか上京して大学入って映画撮るんだって、自分の映画を作りたいと思っていたから、こんなことがあるなんて想像していなくて。一緒に作ってくれたみんなも同い年の子ばかりで、みんな経験とかなくて、でもみんなちゃんと同じ方向を向いてくれて、部活みたいと言ったら軽くなってしまうんですけど、部活の絆はすごく強いと思います。私についてきてくれてありがとうございます。見てくださって、選んでくださって、ほんとうにありがとうございます。

稲生平太郎

どうもおめでとうございます。『散文、ただしルール』は初めての監督作品ということですね。冒頭キャシー・アッカーの言葉が出てきたりして、御歳が20歳そこらなのに、90年代の映画という感じがします。まだ若くて一作目だから、当然作品にはご本人の意識されている部分も、ない部分も含めて欠点等いろいろとあるでしょうけど、審査員一同としてはあなたの持たれているポテンシャル、秘められているかもしれないアイデアを発揮してもらいたいということで、グランプリに決定いたしました。

観客賞

澁谷桂一監督『ミラキュラスウィークエンド・エセ』

澁谷桂一監督
『ミラキュラスウィークエンド・エセ』

受賞者&審査員コメント
カナザワ映画祭 期待の新人監督2022 <授賞式> 書き起こし

澁谷桂一

観客賞は、観客の方が選んでくれた賞、ということで認識しております。トークの時にも申し上げたのですが、「奇跡的なるものの拒絶」というのが僕の中で考えていたテーマでした。たとえば、僕と俳優さんたちが出会えてミラキュラスが作れたことは奇跡じゃなくて、僕が求めて、俳優さんたちが出たいと思ってくれたから出れた映画です。カナザワ映画祭さんに選んでいただけたのも、僕らが応募して、流していいじゃないかと思っていただけて、お客様が見ようかなと思っていただいて、足を運んでくださって、僕たちも見ていただきたいと思って、それぞれ色んな伸ばされた手同士が繋がったことによって、観客賞をいただけたということは光栄なことと思っております。キャストのみなさま、スタッフのみなさま、ありがとうございます。

坪井篤史

おめでとうございます。今回映画祭で上映されて、今後どうなるか分からない作品ではあると思います。観客賞を獲られたということは、やはり観客のみなさんも見たいと感じる作品だったのではないかと思います。僕も見させていただいた時に、ある種難しい作品ではあるのですが、キャスティングの魅力だったりとか。監督も仰られたように、一人の力だけではなく、皆さんの力で出来上がった作品だ、ということを聞けたことを考えますと、劇場でかけることが出来る作品じゃないかな、と思います。作品の内容というよりも、若い人たちが「こういうタイプの映画があるのか」と映画館で知ってもらえるチャンスを与えることが出来る作品じゃないかなと思うので、次のステップでは劇場公開も視野に入れていただけると良いかと思います。

期待の新人俳優賞

『私は彷徨う』出演・幡乃美帆

『私は彷徨う』
出演・幡乃美帆

受賞者&審査員コメント
カナザワ映画祭 期待の新人監督2022 <授賞式> 書き起こし

幡野美帆

選んでいただいてありがとうございます。そして見ていただいた方もありがとうございます。すごく好きな脚本だなと思って取り組んだ作品だったので、こんな素敵な賞をいただけて本当に嬉しいです。ありがとうございました。

高橋洋

『私は彷徨う』は(監督が)知っている人なのですごく審査がやりにくかったのですが。一つの部屋を中心にして撮っている作品で、幡野さん演じるヒロインが首を絞められるところから始まって、そこから息の長いお芝居がある。そんなに広くない部屋で空間を自在にキャメラが前進移動・後退しながら見せていく。その辺はヒロインの魅力を引き出している。もちろん相手役の主人公との距離の関係の変化をも、狭い空間の中で引きだしている。その中で俳優の魅力が際立った、ということで俳優賞ということになりました。

『J005311』出演・野村一瑛

『J005311』
出演・野村一瑛

受賞者&審査員コメント
カナザワ映画祭 期待の新人監督2022 <授賞式> 書き起こし

野村一瑛

はじめまして、野村一瑛と申します。まさかこういう賞をいただけるとは思っていなかったので、すごいビックリしています。本当に河野監督に感謝しています。

武田崇元

(『J005311』は)非常に長い、そしてイライラさせる構図と、無音のまま淡々と時間が流れていく。その中で自殺を思い詰めた、鬱病っぽい人の顔をアップしていく。そしてまた、ぽつぽつと喋りながら、相方のドライバートとの距離というか交流がひしひしと画面から感じられました。おめでとうございます。

総評
カナザワ映画祭 期待の新人監督2022 <授賞式> 書き起こし

川守慶之さん川守慶之さん

コロナ禍の中で、いろいろな制約がある中で、作品を作り続けてきた皆様には心から敬意を表したいなと思います。作品の中では家の中で撮られているものも多くて、それが今のコロナ禍の状況を反映しているのかなとも思ったり、『私は彷徨う』はふと街で出会った女性の背中を追いかけて森に行ってしまうという場面があるのですが、このコロナ禍でいろんな人に出会えなかった中で、本当は出会えたかもしれない可能性が幽霊として表れているように見えました。そういう風な状況で作られてきた作品が多かったのではと思います。

私が推させていただいたのは『遠吠え』という作品です。映画としての完成度が高いなと思います。ロングショットが多用されていて、それぞれのショットの構図も本当によく考えられている。古くて新しいテーマとして格差社会だったりとか、シスターフッドの問題だったりとかもテーマになっている。また私自身40代ということで、主人公に共感する部分がありました。同窓会に行くと格差社会を実感しますよね。同級生がどういった職業についているのかなど、切実な問題としてあります。ショットもすごく良く、最初のガード下のヨガをやっているシーンとか、クローゼットから覗いているPOVショットはハラハラするサスペンスを孕んでおり、これは傑作と言えるのではないかなと思います。全国でのロードショーもされるということなので、この作品を強くお勧めしたいと思います。

もう一作品言及したいのが『J005311』です。冒頭のショットがすごい長くて、クローズアップのショットをこんなに長く残す必要があるのかと思いましたし、それ以外のシーンも不必要に思えるほどの長回しで撮られている。そのロングテイクの編集が一貫している。段々観客も慣れてきますし、追い詰められている男の喋るテンポと合ってきて、クライマックスのロングテイクに活きてきているなと思いました。監督自身、映画はカットがあってそれが続いていくが、現実はカットされずに続いていくものだという言葉が印象的で、この映画にとってはロングテイクである必要性があったのだなと思えました。以上です。

坪井篤史さん坪井篤史さん

どの作品も面白く見させていただいたのですが、どうしても私は映画館の人間であるので、興行の面を含めてお話しさせていただければなと思います。

観客賞に選ばれた『ミラキュラスウィークエンド・エセ』と『J005311』は、自分たちで配給するというのは難しいことなのですが、是非それをやっていただきたいです。『J005311』はミニシアターであの空間の中で見せると必ず賛否が割れると思います。その賛否をスタッフさんなり、監督さんなりに味わっていただきたいなと思うので、この二作品については出来るだけ早めに全国の劇場を決めることができると面白いかなと思います。

『遠吠え』に関しては今まさに劇場でかかっているということも含めて、本当に完成度が高い映画でした。シネマスコーレに声かけていただけるなら、僕も上映したいなと思える作品でした。このまま映画館で勝負していってくれればいいんじゃないかなと思います。

『再演』と『私は彷徨う』に関しては、この監督二人の他の作品を見てみたいなと思えるキッカケになる作品でした。作品集のような感じで、今後映画館で何本かをチョイスして上映していくのが良いのではないかなと思います。

『ジビエ』もこの先が見たいなと思う作品ではあったので、『ジビエ』チームには頑張っていただきたいです。可能性はある作品だったと思うので、是非次回作等々で面白いことに挑戦していただければなと思います。

グランプリの『散文、ただしルール』は僕もベストで選ばせていただきました。実はこの作品はタイトル通り「散文」にしてしまっており、面白い/つまらないで言うと中々難しいところではあるのですが、面白かったのが監督さんがやりたいことをやり尽くしており、作り手の初期衝動がすべて映った映画でした。そういう作品は待っていても見れるものではなく、主演の方も面白いキャスティングだなと思ったので、是非次回作楽しみにしております。さらにもっとやりたいことがあれば好きにやってほしいなと思います。ありがとうございました。

武田崇元さん武田崇元さん

私は映画の専門家ではないですけども、今回は審査員という名誉あることをさせていただいて、非常に荷が重くてですね、皆さん良い作品を作られている中で一つ選ばなくてはいけないということは精神的に重荷でございました。

『J005311』は普通の映画文法から外れるような作品なんだけれども、それを見せ切るだけの演じられた俳優さんの力を感じました。

それから『再演』も非常に良かったです。高橋洋さんの世界と重なってくるのだけど、高橋さんの影響というより、もともとそういう世界を求めていた方らしく、それはよく伝わってきました。

『ジビエ』は、鹿の呪いの話だと思いました。父親が鹿の子供を助けた話をしていますけども、実はアレは助けたあと親もろとも撃ち殺したと、それが剥製となって飾られていて、鹿の呪いで子供が鹿になるというブラックジョークの話なんですが、これも面白かったです。

『遠吠え』は途中でホームレス・カルトの教祖が出てきて面白いなと思ったんだけど、その登場がその後の作品に活かし切れていなかったというのがありました。

『私は彷徨う』はある種ホラーなんだけど、ホラーに徹しきれずに、ホラーを描きたいのか、主人公の青年の鬱屈した不満を描きたいのか、あまりハッキリしなかったんじゃないかなと思います。その中で、次の作品を見てみたいというポテンシャルを感じた『散文、ただしルール』を選ばせていただきました。

高橋洋さん高橋洋さん

最初に審査の会議で僕が一推しをしたのは『ミラキュラスウィークエンド・エセ』でした。観客の皆さんからもすごく支持されているというのを聞いて少し驚きました。普通ズレるんですけど、今回は一致しました。

冒頭、主人公がアパートに帰ってきたら、猫が捨てられており、その猫が女性の形に見えているという入り方は40年前の自主映画と何も変わっておらず、自主映画にありがちな想像力から出発してしまい、そこで結構損していると思ったのですが、そこで主人公の男と二人のヒロインが部屋で一緒にいるんですけど、そこのシーンがすごく良いんですよね。人間関係が決定してしまっている人といるのではなくて、これから関係を築いていかなければいけない、あるいはこの人とどういう関係になるのだろうということを探っていかなければいけないという。若い時はそういう時ありますよね。そういう二人の人間が室内にいるだけで孕む緊張感がずーっと伝わってきて、僕は好感を持って見ておりました。そして視覚的アイデアとしては、最後の方に出てくる畳の上に文字が散らばる映像は、意外にほかの人がやっていないのではないか。自分の手がけた作品でいうと『リング』の「呪いのビデオ」の新聞の文字が蠢くのがあるんですけど、それを実写で見てしまったような不思議な驚きのある工夫だったと思います。

『遠吠え』の監督は実は映画美学校脚本コースに通っていた人で、担当講師が佐藤佐吉さんという俳優兼映画監督の人なんですけど、佐吉さんがハリス監督の才能を高く買って、脚本コースなんかに来てる場合じゃなく、とっとと映画撮った方が良いと言った、という人なんですよね。なるほどと思いました。極めて巧みに構築されたシナリオライティングが出来、かつ演出や制作周りに関しても、かなり経験を積んだ商業で行ける人なんじゃないかという印象を受けました。

同じことは『ジビエ』の監督にも言えるんですけど、完成度が高い作品であるが故に持っている弱さがどちらにもあって、分かっている想像力の中でキレイにまとまっているという印象がどうしても付きまとう。それだけに『ミラキュラスウィークエンド・エセ』ほどの推し方がもう一つ出来ませんでした。ただ『ジビエ』に関しては、最初の方で高校生同士が数学の課題をやってきたかどうかで揉める場面で、ボーっと突っ立っている背の高い生徒がずっと目を閉じて眠るような感じで喋っているのは、異様に面白かったですね。さきほど否定的なことを言いましたが、あの人のあの芝居の感じには今まで見たことがないような感じがあるという手応えを覚えました。

『J005311』は審査の席上でも「これは長回しなのかどうなのか」と議論になったのですが、ただずっと俳優の芝居を追っていれば長回しになるかと言われればそうではないだろうと。見ていて、これは切れるだろうと思える所はいくつもあったし、昨夜監督にも話したんですけど、主人公がタクシーに乗るところを断られて、歩道に戻り、路上に立ったら、後にドライバー役になる青年のひったくりを目撃する、キャメラがパンしたらそれが見えるということになっているんですけども。ああいう主人公が視線を送るタイミングは本当にあのタイミングで良いのかという。どうやらひったくり以前にもドライバー役の青年は目立つ行動をしていたらしいんですけど、僕は画面上それが確認できなくて、何で主人公は視線を送り、そしてそれを追うようにキャメラがパンしたのだろうか、と。そこら辺が不明瞭な感じがしたりして、あちこち手法的に不満があったんですけど、先ほど武田さんがおっしゃられたように、鬱ってこういうことかもしれない、と。時間をかけてずーっと主人公を見つめていく内に鬱っていう症状が描かれている気がしてくるという、そういう不思議な魅力がある作品でありました。最後主人公が樹海に向かうときに、ドライバー役の青年が車をつけてきて、乗らないので走り去っていくという一連のアクションはあれこそ長回しの醍醐味を見たなと感じました。

『再演』と『私は彷徨う』は映画美学校で直接指導したことのある二人なのでやりにくかったのですが、なるべく審査の公正を保とうとしました。『再演』は武田さんがフォローしてくれた通り、Twitter上でも僕の世界に似ているとか影響を受けているとか思うかもしれないんですが、間合君は出合った時からこういう人でした。こういう世界観を持っていて、それを何とかして具現化しようとしていた人なので、決して真似や影響ではない何かを持っていると思います。ただちょっと何か、あのネタで一軒家の中で後半どう展開させていくかという所は、美学校時代もそこで悩んでいたし、まだ自分なりの解決策を見出していないのではないかということと、俳優の演技はとてもよかったのですが、『私は彷徨う』のように俳優の顔がもう一つ伝わってこないという。画面が同時に俳優のパワーを伝えてくるという所まで行っていないなという。それがキャメラポジションなのか、演出なのか、今うまくは言えないんですけど、そこの弱さがあってもう少し経験を積んでほしいなと思いました。

もう少し経験を積んでほしいなと思うのは『私は彷徨う』の木田君にも言えることで、決して広くはないアパートの空間の処理とかは巧みで、映画撮影の経験をかなり積んでいる人の巧みな判断がそこにはあり、そこで如何に俳優陣を出し入れして魅力的に見せていくかという所もよく考えている。そこの力量は高く買うわけなんですけども、何故か世界が小さく見えるんですよね。それは室内だからとか、そういう意味ではなくて、ひょっとしたら主人公に与えている問題が小さいのではないかなと思いました。もう一作くらい経験を積んでもらって、世界が小さく感じるというのは乗り越えてもらえれば、次のステップがあるのではないかと思います。『散文、ただしルール』は20歳で映画を撮り始めた人の、感性がそのまま気後れせずに画面に映っているという所の勢いの良さですよね。それ故に最後まで見切ってしまえる。ヒロインも非常に魅力的だし、あとみんなが褒めていたのは、同居しているというかストーカーみたいな背の高い人ですよね。主人公がイマジナリーフレンドかと思った、生身の人間をイマジナリーフレンドかと思い込むというのは爆笑しました。かつて映画の中ではなかった設定ではないかと思います。

そうは言っても20歳の人がスカラシップ作品を撮ると、低予算とはいえこれから劇場公開を望まれる作品を撮るという重圧ですよね。その重圧にメンタルの部分で耐えられるだろうかということで、僕たちも議論になったんですけど、行けるんじゃないのということで決まりました。ありがとうございます。

稲生平太郎さん稲生平太郎さん

映画を作られる方はまず何らかの設定かごくシンプルなストーリーを考えて、それを膨らませていくという形で作られていくんですよね。全体として思ったのは、そこから先が大変だということが分かるわけですよね。劇場公開が可能な『遠吠え』にしても、最初の設定があり、それ自体は面白いんだろうけども、後半その設定をどう転がしていくか、それがどう映画を動かしていくかという所で難があるのではないかと思いました。

それから『ジビエ』もルックや演技は高度なものですけど、短編とはいえ、もう少し映画を動かすものがあればと思いました。ただそういうのが当てはまらない作品もありまして、『J005311』は設定がシンプル極まりないわけで、これ以上展開のしようもない設定でやっているわけですから、最初は私も当惑したわけですけどね。最後にこの手法にこだわった監督、俳優さんの成果が現れるという形だったと思います。

それから『再演』と『私は彷徨う』は同じ学校の方で、どちらも幽霊モノではあるのですが、かたや『再演』は設定があってそれを発展させることはなされていると。一方『私は彷徨う』の方は設定をうまく展開しきれなかったという印象があるんだけれども、ただしどちらも映画を動かしたかと問われればどうかなと思います。技術的には『再演』の方は非常に高いもので、才能才気があるのがハッキリと分かりますけども、『私は彷徨う』の方はシンプルな設定とか空気感とかを描きたいにしても、それが映画を動かす形でどうやっていくか。

『ミラキュラスウィークエンド・エセ』なんかは僕なんかも見ていて80年代の映画という印象を受けたんですけど、今回観客の方々の反応を見ていると、それ以外の空気も入り込んでいるのかなとも思いなおしました。

グランプリの『散文、ただしルール』は皆さん仰っているように、若い方が色々やってみたいという勢いはありました。ただしさっきも言ったけど、それが本当の勢いなのか、本当に弾けているのかという所は中々難しい所で、次の作品であなたの真価が問われますので頑張って下さい。