爆音リンチ

イレイザーヘッド ERASERHEAD
イレイザーヘッド
1977年/アメリカ/89min/スタンダード/英語・日本語字幕
監督・脚本・編集・美術・特殊効果・音響:デヴィッド・リンチ
出演:ジャック・ナンス、シャーロット・スチュワート、アラン・ジョゼフ、ジーン・ベイツ
デヴィッド・リンチが少数の協力者と共に5年の歳月を費やして完成させた長編映画処女作。煉獄を思わせる陰鬱な工場街を舞台に、異形の新生児を軸として、不条理で超現実的な物語が展開、随所に黒いユーモアも溢れる。若き日のリンチの脳裡に巣食っていたヴィジョンが具現化されたものといえ、以降の作品の原基はほとんどすべてここに存在している。そのモノクロームの映像は、精緻な音響設計を伴って、グロテスクでありながらも甘美な夢の世界をスクリーンに現出させる。(解説:稲生平太郎)
全編がほぼノイズ! 映画を観るというよりノイズの中にいるという感じ。そのノイズの中に時折浮かび上がる映像を、視覚がキャッチする。音が映像を補足するのではなく、音が映像に先行してあって、映像が無理矢理引きずり出される。リンチの映像の源としての音がこの映画の中に浮遊し、充満している。[樋口泰人]
ワイルド・アット・ハート WILD AT HEART

1990年/アメリカ/125min/シネスコ/英語・日本語字幕
監督・脚本:デヴィッド・リンチ
原作:バリー・ギフォード
音楽:アンジェロ・バダラメンティ
出演:ニコラス・ケイジ、ローラ・ダーン、ウィレム・デフォー、イザベラ・ロッセリーニ、ハリー・ディーン・スタントン、クリスピン・グローヴァー
愛し合うセイラーとルーラーの二人は、偏執狂的なルーラーの母親から一方的な恨みを買われ、執拗に狙われる。逃げる二人はカリフォルニアを目指すが、道中で様々な奇妙な人物や事件に出くわすのだった……。マッチの炎のイメージ、エルヴィス・プレスリー、真夜中の交通事故、破裂する頭部、不思議の国のアリス。シンプルなラブ・ストーリーを過剰かつ美しいイメージの連続で描く。夢幻的なシーンでクリス・アイザックの劇中曲“WICKED GAME”が効果的に使われる。


1991年の日本公開時、もし爆音上映をやっていたら確実に最初から爆音で、という話になっていただろう。エルヴィスからゼム、クリス・アイザックと並ぶ音楽はもちろん、観た人誰もの耳に残るマッチの点火音や、ヘヴィメタいきなりの暴発や、血塗れの身体のねちょねちょ音など、聴き所満載の爆音映画。[樋口泰人]
ロスト・ハイウェイ LOST HIGHWAY
ロスト・ハイウェイ
1997年/アメリカ、フランス/135min/ビスタ/英語・日本語字幕
監督・脚本:デヴィッド・リンチ
音楽:アンジェロ・バダラメンティ、トレント・レズナー
出演:ビル・プルマン、パトリシア・アークエット、バルサザール・ゲティ、ロバート・ブレイク、ジャック・ナンス、ゲーリー・ビジー
「ディック・ロラントは死んだ」—自宅のインターホンに出たサックス奏者フレッドは、謎のメッセージを聴いた。ある夜のパーティでフレッドの前に、謎の男が現れて告げる。「私は今あなたの家にいますよ……」。混乱したまま家に戻ると一本のビデオテープが。そこには妻をバラバラに切り刻む彼の姿が映っていたのだった……。中盤から物語の整合性が崩れ混乱するが、迫力の映像と音響で押しきるのは脂の乗った90年代リンチの力技!


全編がむきだしのノイズ&カオスの中にある『イレイザーヘッド』に比べて、この映画の音はそのノイズとカオスの洗練の極みと言ったらいいだろうか。音のレンジも広い。スクリーンを見つめる観客の目の前で囁くような声から、 劇場全体が震えるような歌まで、爆音がその閉ざされた隅々まで浸透していく。[樋口泰人]